闇落ちとは

2024/11/05
mimi 2024.11.05
誰でも

「元気な声で電話ができないから」と言いながらの電話がきた。

退院から3日目。

手術の傷跡も管を抜いた後も痛いし、内臓の調子も良くならない。

元気な声になれない、と。

それはそうだよ、だってお腹を開いたんだよ。

若い人だってお腹を空けたらしばらくはしんどいって聞くよ。

そういうと

そうやな年寄りやもんな、こんな年齢になってこんなことになるとは、と

ため息をつく。

少しずつ、少しずつだよ。

気に病むと、もっとしんどくなるから、眠ろうと話す。

電話を切る前に「仕事で忙しいのにごめんな」といつもいわれる。

仕事で忙しい自分、そして仕事のすき間に半日、リフレッシュだってしていて、その時間があれば高速バスに乗って帰ることもできるのに

私だってこの年齢になってそれが怖くてできずにいる。

あの家がいやで18歳で出たんじゃないか。

祖父母と母との両方の話を毎晩聞いて、

ふすまの開け閉めの音に耳を塞いで

ごはんが食べられなくなるくらい

しんどかったじゃないか。

いろいろな人の感情が打ち寄せて

冷え切った両脚を引き抜いてきたんじゃないか。

もう、いいよ、と内側の私が言う。

彼女には彼女の生き方がある。

私には私の生活がある。繰り返しそう思っていた。

朝、5時34分にベランダに裸足で出て「きぼう」が通過するのを眺めた。

右側の空から左側に向かって、すすーーーっと通って、最後は朝焼けの薄い雲に溶けた。

今日読んでいた資料本にあった言葉。

「人にとって最大の誘惑は、ふたつあります。ひとつは奢ること。もうひとつは自分は神に許されないと思うこと。闇落ちとは絶望のふりをした大きな誘惑なのです」

「ほがらか脳のすすめ」加藤一二三、茂木健一郎(集英社)より

ぶわあ、と力が湧いた。

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