濡れて光る道路
朝、窓から道路を見てアスファルトが濡れていると、なんだかほっとする。
傘を差した人がしずしずと駅に向かっている。
久しぶりの人と仕事をすることになるかもしれない。
内容や条件面など聞いてから決めるつもりだけれど
手放しで楽しみなわけでなく、憂鬱。
何年か前、その人から仕事の打診があったとき、心がへし折られる出来事があり落ちていたから。本当はやりたい、ふだんとはジャンルが違う世界の仕事。
けれど自分には未知なるものに歩み出す気力がなく、返事をする前に号泣したのであった。
結果、こわごわと受けることにして、私は鬼編集として怖がられることになる……1冊出来上がった後、1カ月ぐらい「無」になった。
そういう後味のある人とのものなので、尻込みしている。
植物に霧吹きで水をやったあと、ベランダで鳥の声を聞く。
さあっと日が差して、光る水たまりをよけながらおじさんが歩く。
先週、絵画の話を聞いたときにその人が言っていたこと。
「画家は網膜に映ったものを描いているのではなくもっと奥にある目に見えないものを表している。ナポリの浜の絵を描くときにも感情や哀愁を写し取っている」
そこにある世界に分け入って作者がみている人の手に触れてみたいと思った。
そんな気持ちが自分にやってきたんだと思う。戻ってきたのではなく、どこかから転校してきた友だちのように受け入れる。
ギターで好きな曲のアルペジオを繰り返すと、ほんの1音変わるだけでつーっと痛みのある音になる。早く弾けるようになりたい、という焦りはなくなった。
大切にしたいものがあるから、ここに帰ってくればいいだけだ。
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